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中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める3つの物差し

  
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中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める...

「今年の昇給、いくらにすればいいのか」

毎年この時期になると、社長からこのご相談をいただきます。物価は上がり、最低賃金も上がり、採用も難しい。例年どおり「一人3,000円」で済ませてよいのか、思い切って上げるべきなのか。決めきれないまま4月が近づいてくる、という会社は少なくありません。

昇給額に、ただ一つの正解はありません。ただ、「なぜこの金額なのか」を社長が自分の言葉で説明できる状態にはできます。そのために使うのが、この記事で紹介する3つの物差しです。

  1. 世間相場と比べた、自社の位置
  2. 会社が払える、人件費の枠
  3. 社員一人ひとりの、評価ランク

この順番で考えると、昇給額は「感覚」から「根拠のある判断」に変わります。社員20名の会社の計算例も載せていますので、自社の数字に置き換えながら読んでみてください。

まず、今年の世間の賃上げを確かめる

最初に、世の中の賃上げがどのくらいだったかを確かめておきます。

調べたもの結果
連合の春闘集計(2026年・300人未満の組合)月12,866円・4.69%
連合の春闘集計(2026年・全体)月16,400円・5.01%
厚生労働省の賃金改定状況調査(2026年・30人未満の事業所で、1〜6月に賃上げした事業所の平均)4.3%

※連合の数字は、定期昇給を含んだ賃上げです。労働組合のある会社の集計なので、組合のない小さな会社の実感より高めに出ます。

300人未満の会社でも4%台後半、30人未満でも4%台。中小企業の賃上げとしては、ここ数十年で一番高い水準が続いています。

ただし、この数字は「平均」です。「世間が4.7%だから、うちも4.7%」と決めるのは危険です。もともと世間より給与が高い会社と低い会社では、同じ4.7%でも意味がまったく違うからです。そこで、次の物差しが必要になります。

先に分けておく:ベースアップと定期昇給

3つの物差しに入る前に、昇給を2つに分けておきます。

種類中身決めるときの物差し
ベースアップ(ベア)全員の給与を底上げする分世間相場・物価・最低賃金
定期昇給(定昇)一人ひとりの成長や貢献に応じて上がる分評価ランク

この2つを混ぜて「全員一律5,000円」とすると、頑張った人も、そうでない人も同じ昇給になります。社員から見ると「頑張っても変わらない」というメッセージになってしまいます。

底上げの分と、差をつける分を、別々に決める。これが昇給額を決めるときの土台です。

物差し①:世間相場と比べた、自社の位置

最初の物差しは、自社の給与が世間と比べて高いのか、低いのかです。

比べ方は2つあります。

  • 地域で比べる:都道府県が出している毎月勤労統計で、県内の平均的な給与の動きを見る
  • 同業・同規模で比べる:厚生労働省の賃金構造基本統計調査で、同じ業種・同じくらいの規模の会社の年齢別の給与を見る

代表的な社員を何人か選び、年齢・職種ごとに世間の水準と並べてみると、自社の位置が見えてきます。

自社の位置今年の昇給の考え方
世間より低い採用と定着に響く。世間の平均と同じか、少し上を目指す
世間並み世間の平均を目安に、物差し②の枠の中で決める
世間より高い無理に平均に合わせず、評価で差をつける部分を厚くする

給与が世間より低い会社が、世間の平均と同じ率で上げても、差は縮まりません。反対に、すでに高い会社が平均以上に上げ続けると、人件費がじわじわ重くなります。「何%上げるか」の前に「今どこにいるか」を確かめるのが先です。

物差し②:会社が払える、人件費の枠

2つ目の物差しは、会社がいくらまでなら払えるかです。ここを飛ばして昇給を決めると、数年後に「人件費が重くて賞与が出せない」という事態になりかねません。

昇給の重さを知る:月1万円は、年いくらか

まず押さえておきたいのは、昇給は「一度上げると毎年かかり続けるお金」だということです。

月1万円の昇給は、12か月で12万円。さらに会社が払う社会保険料(法定福利費)がおよそ15%乗るので、会社の負担は年およそ14万円です。賞与を「基本給の何か月分」で決めている会社なら、賞与の分もさらに上乗せされます。

しかも、この負担は翌年も、その次の年も続きます。昇給は、毎年積み上がっていくお金です。

粗利から、使える枠を逆算する

払える枠は、粗利(売上から仕入れや外注費を引いたもの)のうち、何割までを人件費にあてるかで考えます。この割合を「労働分配率」と呼びます。

  • 人件費(給与+賞与+法定福利費)÷ 粗利 = 労働分配率
  • 今年の粗利の見込み × 上限にしたい労働分配率 = 今年使える人件費の上限
  • 上限 − 今の人件費 = 昇給や賞与に回せる余白

労働分配率の目安は業種によって違いますが、大事なのは自社の過去3〜5年の数字を並べて、「この割合を超えると苦しくなった」という線を知っておくことです。その線が、今年の昇給の天井になります。

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物差し③:評価ランクで配る

3つ目の物差しは、決めた総額を、誰にどれだけ配るかです。

物差し①と②で「今年の昇給の総額」が決まったら、そのうちベースアップの分は全員に、定期昇給の分は評価ランクに応じて配ります。

評価ランク定期昇給の目安
S(期待を大きく上回る)Bの2倍以上
A(期待を上回る)Bの1.5倍程度
B(期待どおり)基準の額
C(期待を下回る)Bの半分程度

ポイントは、ランクごとの差を「社員に見える形」にしておくことです。差がわずかだと、評価をしても昇給が変わらず、評価そのものが形だけになっていきます。

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計算例:社員20名の会社で、今年の昇給を決める

ここまでの3つの物差しを、1社の例で通してみます。

会社の前提(※数字は説明のためのモデルです)

  • 社員20名・月給の合計560万円(一人平均28万円)
  • 賞与は年2か月分・法定福利費は給与と賞与のおよそ15%
  • 今期の粗利の見込みは1億8,500万円

ステップ1:世間と比べる

賃金構造基本統計調査で同業・同規模と比べたところ、30代の中堅がやや低めでした。今年は世間並み(4%前後)を目指す方針にします。

ステップ2:払える枠を確かめる

項目金額
今の人件費(給与6,720万+賞与1,120万+法定福利費約1,180万)約9,020万円
今の労働分配率(9,020万 ÷ 1億8,500万)約49%
上限にしたい労働分配率(過去に苦しくなった線)51%
今年使える人件費の上限(1億8,500万 × 51%)約9,430万円
昇給や賞与に回せる余白約410万円

月給の合計を1%(5.6万円)上げると、賞与と法定福利費を含めて年およそ90万円の負担になります。余白410万円なら、4.5%前後が上限です。粗利が見込みどおりにいかなかったときの余裕も残し、今年は4%(月22.4万円・年およそ360万円)に決めます。

ステップ3:ベースアップと定期昇給に分けて配る

月22.4万円の総額を、次のように配ります。

  • ベースアップ:全員に5,000円(20名で10万円)
  • 定期昇給:残りの約12万円を評価ランクで配る
評価ランク人数定期昇給ベア込みの昇給小計
S2名12,000円17,000円34,000円
A5名8,000円13,000円65,000円
B10名5,000円10,000円100,000円
C3名3,000円8,000円24,000円
合計20名——223,000円

ベア込みで見ると、B評価の人で月1万円(約3.6%)、S評価の人で月1万7,000円。全員が物価の上昇分を受け取りつつ、評価の差もはっきり残ります。

社長はこの表を手に、「今年は世間並みの4%。会社として払えるのはここまで。そのうえで、頑張った人にはこれだけ差をつけた」と、昇給の理由を説明できるようになります。

最後に:最低賃金の線を確かめる

決めた昇給額で、新人の給与が最低賃金を下回らないか、そして新人と先輩の差が縮みすぎていないかを、最後に確かめます。最低賃金は毎年大きく上がるので、ここで引っかかる会社が増えています。

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よくある失敗3つ

1. 全員一律で終わる

「今年は全員5,000円」は、決めるのが楽で、不満も出にくいように見えます。ただ、毎年続けると、評価をする意味がなくなり、頑張っている人ほど「この会社にいても変わらない」と感じるようになります。

2. 最低賃金に合わせた結果、先輩との差が消える

新人の給与だけを最低賃金に合わせて上げ、先輩は例年どおり。これを数年続けると、新人と先輩の給与がほとんど変わらなくなります。昇給を決めるときは、最低賃金の上がり幅も一緒に見ておく必要があります。

3. 一度上げすぎて、下げられなくなる

業績がよい年に基本給を大きく上げると、翌年以降もその負担が続きます。基本給は、一度上げると下げるのがとても難しいお金です。迷う分は基本給ではなく、賞与や一時金で報いる。これが、長く続けられる昇給の考え方です。

よくある質問

Q. 昇給の時期はいつがよいですか?
A. 4月が一般的ですが、決算月に合わせて決める会社もあります。大事なのは、粗利の見込みが立つ時期に決めることです。決算から2〜3か月後に昇給する形にすると、物差し②の枠を確かめやすくなります。

Q. 赤字の年も昇給しないといけませんか?
A. 法律上の義務はありません。ただ、まったく上げないと、物価が上がっている分、実質的には給与が下がったことになります。ベースアップは見送り、定期昇給は小さくても続ける、という形で「評価の差は守る」会社が多いです。その場合は、理由を社員にきちんと伝えることが欠かせません。

Q. 社員にはどう説明すればよいですか?
A. 全体の方針(世間と比べた自社の位置、会社として出せる総額)と、本人の評価ランクを分けて伝えると伝わりやすくなります。「会社全体としてはこう決めた。そのうえで、あなたの評価はこうだったので、この額になった」という順番です。

Q. パートやアルバイトの時給も、同じ考え方で決めますか?
A. 基本は同じです。ただ、パートの時給は最低賃金に近いことが多いので、まず最低賃金の引き上げに合わせて全体を上げ、そのうえで経験や評価による差をつける順番で考えると整理しやすくなります。

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まとめ:物差しを決めておけば、毎年迷わない

昇給額は、毎年その場で考えると、どうしても世間の平均や前年の額に引っぱられます。

  • 物差し①:世間相場と比べた、自社の位置
  • 物差し②:粗利から逆算した、人件費の枠
  • 物差し③:評価ランクによる配り方

この3つを一度決めておけば、来年からは数字を入れ替えるだけで、根拠のある昇給額が出せるようになります。

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出典:連合「2026 春季生活闘争 第7回(最終)回答集計」(2026年7月1日集計)/厚生労働省「令和8年賃金改定状況調査」

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