中小企業の賞与原資、いくらまで出せる?|利益から逆算して決める手順と計算例
結論:賞与原資の上限は「今期の利益の見込み − 会社に残したい利益」で決まります。 社員20名・粗利1億8,500万円の会社なら、上限は年間でおよそ月給の2.5か月分。前年並みの「2か月分」で決める前に、この上限を一度計算しておくと、今年いくら出せるのかを根拠をもって決められます。
「冬の賞与、今年はいくら出せばいいのか」
11月に入ると、社長からこのご相談が増えます。売上は伸びたけれど、仕入れも人件費も上がっている。去年と同じ2か月分を出して大丈夫なのか。それとも、もっと出せるのか。
多くの会社では、賞与は「前年並み」で決まっています。ただ、前年並みは楽な反面、利益が出た年には社員に報いきれず、利益が減った年には会社の体力を削る決め方です。
この記事では、賞与原資(賞与として配るお金の総額)を利益から逆算して決める手順を、計算例つきで紹介します。自社の数字に置き換えながら読んでみてください。
賞与原資の決め方は、大きく3つ
賞与原資の決め方には、大きく分けて次の3つがあります。
| 決め方 | 中身 | よいところ | 気をつけたいところ |
|---|---|---|---|
| ① 月数で決める | 基本給×○か月分 | 計算が簡単・社員も予想しやすい | 業績と関係なく決まる。基本給が上がるほど自動的に増える |
| ② 利益から決める | 利益のうち○%を賞与に回す | 業績と連動する・社員に説明しやすい | 利益の見込みが外れると、あとで調整が要る |
| ③ 人件費の枠から決める | 粗利のうち人件費にあててよい割合から逆算 | 給与・昇給とまとめて考えられる | 自社の「適正な割合」を知っておく必要がある |
おすすめは、②と③で上限を出し、①の月数で社員に伝えるやり方です。上限の考え方は利益で持ち、社員への伝え方は「今回は○か月分」というなじみのある形にする。こうすると、業績との連動と、わかりやすさを両立できます。
手順1:今期の利益の見込みを出す
最初にやるのは、賞与を払う前の段階で、今期どれだけ利益が出そうかを見込むことです。
- 決算月までの残りの月の売上・粗利を見込む
- 給与・法定福利費・家賃などの経費を差し引く
- 賞与をまだ払っていない状態での、経常利益の見込みを出す
冬の賞与を決める時期なら、たいてい上期(半年分)の実績が出ています。上期の実績に下期の見込みを足して、1年分の数字を作ります。試算表を顧問税理士さんにもらえば、半日もかからずに出せます。
手順2:会社に残したい利益を決める
次に、賞与を払ったあとでも、会社に最低限これだけは残したいという利益を決めます。
残したい利益は、次のようなものの合計です。
- 借入金の返済にあてるお金(返済は利益から払うため)
- 設備の更新や、次の投資に備えるお金
- 業績が落ちた年に備える、たくわえ
目安がない場合は、売上の2%前後から考え始めると決めやすくなります。大事なのは、この金額を賞与を考える「前に」決めておくことです。賞与を決めたあとに残った分を利益とする順番だと、どうしても利益が削られていきます。
手順3:上限を計算する
ここまでで出た2つの数字で、賞与原資の上限が出ます。
- 賞与前の利益の見込み − 残したい利益 = 賞与に回せるお金(法定福利費込み)
- 賞与に回せるお金 ÷ 1.15 = 賞与原資の上限
1.15で割るのは、賞与にも会社負担の社会保険料(法定福利費)がおよそ15%かかるためです。賞与100万円を払うと、会社の負担はおよそ115万円になります。
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1社の例で通してみます。
会社の前提(※数字は説明のためのモデルです)
- 社員20名・月給の合計560万円(一人平均28万円)
- 売上4億6,000万円・粗利1億8,500万円(粗利率およそ40%)
- 給与の年間合計6,720万円+法定福利費約1,010万円=賞与を除いた人件費 約7,730万円
- 家賃・車両・広告などの経費 約8,200万円
- 例年の賞与は年2か月分(夏・冬で1か月ずつ)
方法②:利益から上限を出す
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 粗利の見込み | 1億8,500万円 |
| 賞与を除いた人件費 | −7,730万円 |
| その他の経費 | −8,200万円 |
| 賞与前の利益の見込み | 約2,570万円 |
| 残したい利益(売上の2%) | −920万円 |
| 賞与に回せるお金(法定福利費込み) | 約1,650万円 |
| 賞与原資の上限(÷1.15) | 約1,430万円 |
年間の賞与原資の上限は約1,430万円。月給の合計560万円で割ると、およそ2.5か月分です。
方法③:人件費の枠から確かめる
もう1つの方法でも確かめておきます。この会社が過去の数字から「人件費が粗利の51%を超えると苦しくなる」とわかっているとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 人件費の上限(1億8,500万円×51%) | 約9,430万円 |
| 賞与を除いた人件費 | −7,730万円 |
| 賞与に回せるお金(法定福利費込み) | 約1,700万円 |
| 賞与原資の上限(÷1.15) | 約1,480万円(およそ2.6か月分) |
2つの方法で、上限はどちらも2.5か月分前後になりました。方法が違っても答えが近ければ、その数字には根拠があると考えてよいでしょう。
上限から、今年の賞与を決める
上限がわかったら、ここから実際の金額を決めます。
- 例年どおりの2か月分(1,120万円)なら、上限まで約300万円の余裕がある
- 下期の売上が見込みを下回ったときに備え、余裕を少し残す
- 今年は年2.2か月分とし、冬は1.2か月分を支給する
上限の2.5か月分を全部出し切らないのは、利益の見込みが外れたときの備えです。期末に利益が見込みどおり出ていれば、残りを決算賞与として上乗せする方法もあります(決算賞与の注意点は、後のよくある質問で触れます)。
社長は「今年は利益がこれだけ出そうだから、例年より0.2か月分多く出す。会社にはこれだけ残す」と、賞与の理由を説明できるようになります。
関連記事中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める3つの物差し世間相場・人件費の枠・評価ランクの3つで、今年の昇給額を決める
原資が決まったら、配り方は評価で
原資の総額が決まったら、次は誰にどれだけ配るかです。
ここで多くの会社がしているのが、「基本給×月数」でそのまま全員に配る方法です。ただ、この方法だと賞与は基本給、つまり勤めた年数に比例します。評価をしていても、賞与の差にはほとんど表れません。
評価を賞与に反映させたい場合は、原資を2つに分けて配ります。
- 固定の部分:基本給や役割(等級)に応じて、全員に配る
- 評価で動く部分:評価の結果に応じて配る
栃木県の住宅設備サービスの会社(社員約60名)では、賞与が前年並みで決まり、社員から「がんばっても賞与に反映されない」という声が出ていました。そこで、「原資は会社の利益で、配分は評価のポイントで」決めるルールに切り替えました。まず経営目標の達成度合いで全社の原資を決め、次に評価の結果で決まるポイントに応じて一人ひとりに配ります。ポイントの差は、最大で約2倍です。
決まり方を全員に見えるようにしたことで、前年並みから業績で変わる仕組みへの切り替えが受け入れられました。社長の言葉は「評価に情は入れない。そのかわり、ルールは全員に見えるようにする」でした。
関連記事賞与でメリハリをつけたのに、社員の反応が薄いのはなぜか|「固定」と「評価で動く分」に分けて確かめる方法賞与を「固定」と「評価で動く分」に分けて、差が届いているか確かめる
よくある失敗3つ
1. 前年並みを続けて、利益が出た年に報いきれない
業績がよかった年も前年並みの賞与だと、社員は「がんばっても変わらない」と受け取ります。反対に、業績が悪い年に前年並みを出し続けると、会社の体力が削られていきます。利益と連動していない賞与は、どちらの年にも説明がしにくいのです。
2. 夏と冬を、最初から同じ額で決めてしまう
年間の賞与を夏と冬で半分ずつと決めてしまうと、下期の業績が読めないまま冬の額が決まります。冬は見込みの範囲で出し、期末に利益が確定してから決算賞与で調整すると、出しすぎも出し足りなさも防げます。
3. 原資を決めずに、一人ずつ額を決めていく
社員一人ひとりの顔を思い浮かべながら額を決め、足し上げたら想定より大きくなっていた。これは、とてもよくある形です。先に総額を決め、その中で配る順番にするだけで、毎回の悩み方が変わります。
よくある質問
Q. 赤字の年は、賞与を出さなくてもよいですか?
A. 就業規則や賃金規程で「業績により支給しないことがある」と定めていれば、出さない判断もできます。ただ、まったく出さないと社員の不安が大きくなるため、寸志程度でも出し、「今年はこういう理由でこの額」と説明する会社が多いです。規程の書き方は、一度確かめておくと安心です。
Q. 決算賞与を出すときの注意点はありますか?
A. 期末までに支給額が決まっていても、払うのが翌期になる決算賞与を今期の経費にするには、条件があります。期末までに支給額を各人別にすべての対象者へ通知すること、期末の翌日から1か月以内に支払うこと、通知した期に経費として処理すること、などです。出す場合は、早めに顧問税理士さんに相談しておきましょう。
Q. 社員に、賞与原資の総額を伝えるべきですか?
A. 金額そのものを伝えるかどうかは会社によって違いますが、「原資は利益で決まり、配分は評価で決まる」という決まり方は伝えたほうがよいと考えています。決まり方が見えると、社員は「会社の利益を増やせば賞与も増える」とつながりを実感できるからです。
Q. パートやアルバイトにも、同じ考え方を使えますか?
A. 使えます。原資の総額を決める段階でパートさんの分も含めておき、配るときは勤務時間や役割に応じた固定の部分と、評価で動く部分に分けると整理しやすくなります。
関連記事中小企業の給与制度の見直し方【完全ガイド】社長が根拠をもって決められる6つの手順と事例給与制度を見直すときの6つの手順と、3社の事例
まとめ:賞与は「上限」を知ってから決める
賞与原資は、毎回その場で考えると、どうしても前年の額に引っぱられます。
- 手順1:賞与を払う前の、今期の利益の見込みを出す
- 手順2:会社に残したい利益を、先に決める
- 手順3:その差から、賞与原資の上限を出す
上限がわかれば、「どこまでなら出せるか」と「今年いくら出すか」を分けて考えられます。そして、その理由を社員に説明できるようになります。
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