給料を上げても社員が辞めるのはなぜ?|中小企業の社長が、上げる前に確かめたい3つのこと
結論:給料を上げても社員が辞めるのは、「上げた額」ではなく「上げ方」と「上げた理由」が社員に届いていないことが多いからです。 全員一律に上げると、頑張った人ほど「自分の頑張りは見られていない」と感じます。理由を伝えずに上げると、上がったことすら覚えていません。そして、辞める理由が給料以外(成長している実感がない、など)にあるなら、給料をいくら上げても止まりません。上げる前に、この3つを確かめてください。
「無理をして、今年は全員の給料を上げた。それなのに、若手が辞めた」
社長からこう聞くたびに、悔しさが伝わってきます。給料を上げるのは、会社にとって簡単なことではありません。利益を削って上げたのに、それで人が残ってくれないなら、何のために上げたのか分からなくなります。
ただ、話をよく聞くと、多くの場合、上げた額が足りなかったわけではありません。上げ方と、上げたことの伝え方に、すれ違いがあります。
この記事では、給料を上げても社員が辞める理由と、上げる前に確かめたい3つのことを紹介します。
給料を上げても辞める、3つの理由
理由1:全員一律で、頑張りが見えない
物価や最低賃金が上がる中で、「全員に月1万円」のように一律で上げる会社が増えています。生活を守るための賃上げとしては、筋の通ったやり方です。
ただ、社員の目線で見ると、こう映ります。
- 頑張った人:「あの人と同じ1万円か。自分の頑張りは見られていない」
- そうでない人:「何もしなくても上がった」
一律の賃上げは、不満を減らす効果はあっても、やる気を上げる効果は小さいのです。特に、仕事ができる人ほど、一律に不満を感じます。そして、仕事ができる人ほど、ほかの会社からも声がかかります。
理由2:上げた理由が伝わっていない
給与明細の数字が少し変わっただけで、誰からも何も言われない。社員にとっては、これが一番ありがちな「昇給」です。
社長は「今年は無理をして上げた」と思っていても、社員は上がったことにさえ気づいていないことがあります。気づいていても、「物価が上がったから、どこでも上げているんでしょう」と受け止められていることもあります。
上げた理由が伝わらなければ、給料が上がっても、「この会社は自分を見てくれている」という気持ちにはつながりません。
理由3:辞める本当の理由が、給料ではない
退職の理由として「給料」を挙げる人は多いのですが、それが本当の理由とは限りません。給料は、本音を言いにくいときの「表の理由」として使われやすいからです。
支援先で聞いた、部長の見立て
金属加工の会社で、部長の方と若手の定着について話していたときのことです。部長ははっきりこう言いました。
「若手が辞める理由は、給料や休みではない。成長が実感できないことだ」
この会社は、同じものを大量に作るのではなく、一つひとつ違う製品を作っています。毎回新しい課題に取り組む仕事なので、本来は成長を実感しやすいはずです。それでも若手が「成長している」と感じられないとしたら――これは私の見立てですが、できるようになったことを、言葉にして本人に返す場が少ないのではないかと考えています。
給料を上げても、「自分はこの1年で何ができるようになったのか」「次は何を目指せばいいのか」が見えなければ、若手は別の会社で成長を探しに行きます。
ここで大事なのは、給料と成長実感が別々のものではない、ということです。できるようになったことが評価され、それが給料に表れる。 この流れがあって初めて、給料は「成長の手応え」として社員に届きます。
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1. 上げ方:一律の分と、頑張りで差がつく分を分けているか
賃上げを、全員一律の分と、評価で差がつく分に分けて考えます。
| 分け方 | 中身 | ねらい |
|---|---|---|
| 一律の分 | 物価・最低賃金への対応。全員同じ額 | 生活を守る |
| 評価で差がつく分 | 評価に応じて、多い人・少ない人をつくる | 頑張りに報いる |
たとえば、1人あたり平均1万円上げる予算なら、「一律6,000円+評価で0〜8,000円」のように分けます。合計の予算は同じでも、頑張った人には「見られている」が届きます。
評価と昇給額のつなぎ方は、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事人事評価と昇給を連動させる方法|評価ランク別の昇給額の決め方と設計例評価ランクごとの昇給額の決め方と、設計の例
2. 伝え方:上げた理由を、一人ひとりに言葉で返しているか
給料が上がるときは、明細を渡す前に、上司か社長から一言伝えます。
今年は○○円上がります。そのうち△△円は、□□の仕事を一人で任せられるようになったことへの評価です。来年は◇◇ができるようになることを期待しています。
伝えることは3つだけです。いくら上がるか、なぜ上がるか、次に何を期待しているか。 これだけで、同じ金額でも受け止め方がまったく変わります。
3. 給料以外:辞める本当の理由を聞いているか
最後に、辞めた人・辞めそうな人の本当の理由を確かめます。
- 退職した人に、辞めた後で(利害がなくなってから)話を聞く
- 今いる社員に、給料以外で困っていることを聞く
- 「成長している実感があるか」「次に何を目指せばいいか分かるか」を、面談で聞いてみる
ここで給料以外の理由が出てきたら、給料を上げる前に、そちらに手を打つほうが先です。
こんな会社は、上げる前に立ち止まりたい
次のどれかに当てはまるなら、給料を上げる前に、上げ方と伝え方を見直すことをおすすめします。
- 毎年、全員ほぼ同じ額だけ上げている
- 評価はしているが、昇給額にはほとんど差がない
- 昇給の理由を、社員一人ひとりに伝えていない
- 辞めた人の本当の理由を、誰も聞いていない
評価はしているのに給料に差が出ない理由は、こちらの記事で書いています。
関連記事「評価はしているのに、給与に差が出ない」のはなぜか評価も面談もしているのに、昇給額がみんな同じになる理由
よくある質問
Q. 一律で上げるのは、やめたほうがいいのですか?
A. やめる必要はありません。物価や最低賃金への対応として、一律の分は必要です。大事なのは、一律の分だけで終わらせず、頑張りで差がつく分をつくることです。金額は小さくても、差があることが伝わります。
Q. 評価の仕組みがないので、差をつけようがありません。
A. 最初から細かい評価表は要りません。「任せている仕事の重さ」と「この1年でできるようになったこと」の2つだけでも、上司と社長で話し合えば差はつけられます。そのうえで、少しずつ評価の物差しを整えていけば十分です。
Q. 給料を上げても辞めた人は、何が不満だったのでしょうか。
A. 本人に聞くのが一番です。退職した後、しばらくたってから連絡すると、在職中には言えなかったことを話してくれることがあります。給料以外の理由が出てきたら、それはほかの社員にも当てはまる可能性が高い、大事な情報です。
Q. 給料を上げる余裕がありません。
A. 上げる額を決める前に、会社としていくらまでなら毎年上げ続けられるかを確かめます。そのうえで、限られた額を「一律」と「頑張りで差がつく分」に分ければ、少ない額でも頑張った人に報いることができます。
関連記事中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める3つの物差し世間相場・人件費の枠・評価ランクの3つで、今年の昇給額を決める
まとめ:給料は「額」より「上げ方」と「理由」で届く
- 給料を上げても辞めるのは、上げ方が一律で頑張りが見えない、上げた理由が伝わっていない、辞める理由が給料以外にある、のどれかが多い
- 上げる前に、①一律の分と差がつく分を分けているか、②理由を一人ひとりに伝えているか、③本当の理由を聞いているか、を確かめる
- 給料と成長実感は別々ではない。できるようになったことが評価され、給料に表れる流れをつくる
社員が辞めていく理由を、給与の面からまとめた記事もあります。
関連記事中小企業で若手社員が辞める本当の理由と防止策|給料の額より「給与の根拠」が定着のカギ条件は悪くないのに若手が辞める会社に共通する、給与の「説明できなさ」
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