「給料を上げてくれないと辞める」と言われたら|中小企業の社長がその場で決めてはいけない理由と、答え方
結論:「給料を上げてくれないと辞める」と言われても、その場で金額を約束してはいけません。 その場で上げると、①言った人だけが上がる不公平が生まれ、②「言えば上がる会社」になり、③本人も結局辞めることが少なくありません。まず「上げる理由が会社のルールで説明できるか」を確かめ、答えは日を改めて、根拠と一緒に返す。そして、同じことが二度起きないように、給与の決まり方を社員に見える形にしておくことです。
「社長、給料を上げてもらえないなら、辞めようと思っています」
仕事ができる社員にこう言われると、多くの社長は一瞬で計算を始めます。この人が抜けたら現場が回らない。代わりを採るには時間もお金もかかる。月2〜3万円で残ってくれるなら――。
その気持ちはよく分かります。ただ、この場面の対応を間違えると、目の前の1人ではなく、残っている社員全員との関係に響きます。
この記事では、「給料を上げないと辞める」と言われたときに、社長が確かめたいことと答え方、そして同じことを繰り返さないための備えを紹介します。
その場で上げると、何が起きるか
1. 言った人だけが上がる
その場で月3万円上げたとします。同じくらい働いていて、何も言わなかった社員の給料は変わりません。黙って頑張っている人より、辞めると言った人のほうが得をすることになります。
給料の話は、思っている以上に社内で伝わります。「あの人、辞めるって言ったら上がったらしい」という話が広がれば、真面目な社員ほど「言わないと損だ」と感じ始めます。
2. 「言えば上がる会社」になる
一度その場で上げると、次に誰かが同じことを言ったときに断れなくなります。断れば「あの人は上げたのに」と言われるからです。気づけば、給料が社長と社員の交渉で決まる会社になってしまいます。
3. 本人も、結局辞めることが多い
退職を引き止めるための昇給(カウンターオファー)を受け入れた人が、その後1年ほどで辞めてしまうという話は、転職の世界ではよく知られています。理由は単純で、辞めたいと思った本当の理由が、給料だけではないことが多いからです。仕事のやり方、上司との関係、この先の見通し。給料が上がっても、それらが変わらなければ、気持ちは戻りません。
しかも、一度「辞める」と口にした人は、社内でも「いつか辞める人」と見られがちです。本人も居心地が悪くなります。
支援先で起きていたこと
技術職の多い会社で、等級(仕事の段階)の仕組みを見直していたときのことです。打ち合わせの中で、こんな話が出ました。
腕のいい技術者に「給料を上げてくれなかったら辞めます」と言われ、そのまま上げてしまったことがある、と。
この会社で問題になっていたのは、その人の給料そのものではありませんでした。管理職に進まないと上の段階に上がりにくい仕組みだったため、技術を極めたい人ほど、給料を上げるには「交渉する」しか道がなかったのです。
そこで話し合ったのは、管理職に進まなくても、技術の段階に応じて給料が上がる道(専門職の段階)を、制度として用意することでした。誰がどの段階にいて、次の段階に上がるには何ができればよいか。それが見えていれば、技術者は交渉しなくても、自分の給料の行き先が分かります。社長も、個別の交渉に振り回されなくなります。
言われたとき、まず確かめたい3つのこと
その場では、こう返すのがおすすめです。
話してくれてありがとう。大事な話なので、今ここで決めずに、きちんと考えて○日までに返事をします。
そのうえで、返事までに次の3つを確かめます。
1. 本当の理由は給料か
給料の話は、本音を言いやすい「表の理由」であることがよくあります。本当は、仕事の任され方、上司との関係、この先の見通しへの不安が根っこにあることも少なくありません。
返事の前に、一度ゆっくり話を聞きます。「給料以外に、困っていることはないか」と聞くだけで、話が変わることがあります。
2. 今の給料は、仕事に見合っているか
次に、その人の給料を、同じくらいの仕事をしている社員と並べて見ます。
| 社員 | 担っている仕事 | 月給 |
|---|---|---|
| Aさん(辞めると言った人) | 現場のまとめ役・後輩の指導 | 26万円 |
| Bさん | 現場のまとめ役・後輩の指導 | 27万5,000円 |
| Cさん | 担当作業のみ | 25万5,000円 |
この並びなら、Aさんの給料は仕事に対して低めです。上げる理由が、Aさんが言ったからではなく、仕事の中身から説明できます。 この場合は、上げてよいと考えます。
逆に、すでに同じ仕事の人より高いなら、上げる理由はありません。その場合は、上げられない理由と、どうなれば上がるのかを伝えます。
3. 上げるなら、ほかの人はどうするか
Aさんを上げると決めたら、同じ立場のほかの社員もそろえるかを考えます。上の表なら、Aさんを上げるのと同時に、Cさんとの差も見ておく必要があります。1人だけを動かすと、別のところで並びが崩れます。
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上げる場合(給料が仕事に見合っていなかった)
話を聞いて、今の仕事の中身と給料を、ほかの人とも並べて確かめました。現場のまとめ役として任せている仕事に対して、今の給料は低かったと思います。○月から月○万円上げます。
これは、辞めると言われたからではなく、任せている仕事に合わせて直すものです。同じように見直す人がほかにもいます。
ポイントは、「辞めると言われたから」ではなく「仕事に合わせた」と、理由を言葉にすることです。
上げない場合(すでに仕事に見合っていた)
話を聞いて、今の仕事の中身と給料を確かめました。同じ仕事をしている人と比べて、今の給料は低くありません。だから、今回はこの理由だけで上げることはできません。
ただ、あなたにはもっと任せたいことがあります。○○ができるようになって、△△を任せられるようになれば、次の段階として給料も上がります。そこを一緒に目指してほしいと思っています。
上げない場合でも、「どうなれば上がるのか」を具体的に伝えることが大切です。それでも辞めるという判断なら、それは本人の選択として受け止めます。
同じことを繰り返さないために
「給料を上げないと辞める」と言われる会社には、共通点があります。給料がどう決まるのか、社員から見えていないことです。
- どんな仕事を任されたら、いくらになるのか
- 毎年の昇給は、何で決まるのか
- 今の自分は、どの段階にいるのか
これが見えていない会社では、給料を上げる方法が「交渉」しかありません。逆に、これが見えていれば、社員は交渉ではなく、次の段階に上がることで給料を上げようとします。
最初の一歩は、仕事の段階ごとに給料の幅を決めた給与表と、毎年の昇給の決め方を作ることです。
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よくある質問
Q. 辞められたら本当に困る人です。それでも、その場で上げてはいけませんか?
A. 困る気持ちはよく分かります。それでも、その場で金額を約束するのは避けたほうがよいと考えています。「数日以内に返事をする」と伝えるだけで、本人は「真剣に考えてもらえた」と受け取ります。数日待てない話なら、給料以外の理由で気持ちが固まっていることが多いです。
Q. ほかの会社から内定をもらっていると言われました。
A. 内定先の条件と比べて上乗せする対応は、交渉の積み増しになりやすいので慎重に考えます。比べるのは、他社の条件ではなく、自社の中での仕事と給料の並びです。そのうえで、自社でこの先どうなれるかを伝えます。
Q. 上げたあと、ほかの社員に説明は必要ですか?
A. 個人の給料を公表する必要はありません。ただ、「仕事の中身に合わせて給料を見直すことがある」という考え方は、日ごろから全員に伝えておくとよいです。そうすれば、誰かの給料が上がっても「交渉したから」ではなく「仕事が変わったから」と受け取ってもらえます。
Q. 給料を上げても、また同じことを言われたらどうしますか?
A. 二度目は、一度目より慎重に考えます。仕事の中身が変わっていないのに給料だけが上がり続けると、給与の並びが崩れます。仕事の段階と給料の幅を決めておけば、「この段階の給料の上限はここまで。次の段階に上がるには、これができること」と答えられます。
まとめ:その場で決めず、根拠で答え、仕組みで防ぐ
- 「給料を上げないと辞める」と言われても、その場で金額を約束しない
- その場で上げると、言った人だけが得をし、「言えば上がる会社」になり、本人も結局辞めることが多い
- 返事までに、①本当の理由、②仕事と給料の並び、③ほかの人への影響、を確かめる
- 上げるなら「仕事に合わせた」と理由を言葉にし、上げないなら「どうなれば上がるか」を伝える
- 同じことを繰り返さないために、給料の決まり方を社員から見える形にする
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