「利益意識が低い」のは、数字が見えていないだけかもしれない
「現場の利益意識が、どうも低くてね」
経営者の方と話していると、こういう言葉をよく聞きます。
材料を大事に使ってほしい。段取りのムダを減らしてほしい。もっと一人ひとりがコスト感覚を持ってくれたら…。気持ちはとてもよく分かります。
ただ、最近ある製造業の現場で起きた出来事を通して、私は少し違う角度から考えるようになりました。
利益意識が高まらないのは、社員のやる気や姿勢の問題ではなく、そもそも「判断するための数字」が現場に届いていないだけ、という可能性です。
評価シートを入れると、必ず「指標」がついてくる
その会社では、評価シートの導入を進めていました。
これまで評価は、どうしても上司の印象に左右される部分が大きかった。そこで、できるだけ納得感のある仕組みにしようと、成果指標を設定することにしたのです。
ここで一つ、当たり前ですが大事なことが起きます。
成果指標を決めると、その指標を「管理する」必要が必然的に出てくる、ということです。
たとえば「稼働率を意識する」と評価項目に書いたとします。すると当然、「では、その稼働率は今いくつなのか」を誰かが把握していないと、評価のしようがありません。
評価制度というと、つい「シートの作り込み」に目がいきがちです。
けれども本当の入り口は、その指標を測り、見えるようにすること。ここを飛ばすと、評価制度は「言葉だけの建前」になってしまうのではないでしょうか。
あいまいだった数字を、一枚にまとめてみた
その会社では、稼働率のデータがずっとあいまいなままでした。
まったく無いわけではない。けれど、機械ごと・ラインごとにバラバラで、「全体として今どうなのか」がひと目では分からない状態だったのです。
そこで、散らばっていた数字を集めて、一つの表に整理してみました。
特別なことをしたわけではありません。すでに社内にあった情報を、見える形にまとめ直しただけです。
ところが、それを管理者たちに見せたときの反応が、印象的でした。
「これがほしかったんだ」という表情
データを前にした管理者たちは、明らかに前向きになりました。
「ああ、これがほしかったんだよ」
口に出してそう言ったわけではないかもしれませんが、表情からそういう空気がはっきり伝わってきたのです。
さらに驚いたのは、こんな声まで出てきたことでした。
「この数字、現場のメンバーにも共有したいね」
管理者が、自分たちだけで数字を抱えるのではなく、現場と一緒に見たいと言い出した。これは小さなことのようで、私はとても大きな変化だと感じました。
人は、見えた瞬間に動きたくなる
考えてみると、自然なことかもしれません。
数字が見えていなければ、「もっと頑張れ」と言うことしかできません。けれど数字が見えた瞬間、「ここをこうしたら上がるんじゃないか」という具体的な会話が始まります。
管理者たちは、決して利益に無関心だったわけではないのです。
むしろ、関心はあったのに、その関心を向ける先となる「数字」が手元になかった。だから動きようがなかった。そう考えると、これまでの停滞の見え方が、少し変わってきます。
利益意識は、説教では育ちにくい
ここで、冒頭の「現場の利益意識が低い」という言葉に戻ってみます。
利益意識を高めようとすると、つい朝礼やミーティングで「コストを意識しよう」と呼びかける方向に向かいがちです。
もちろん、それも無駄ではありません。
ただ、言葉だけで意識を変えようとするのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
人は、自分の行動が数字にどう跳ね返るのかが見えて、はじめて「じゃあ、こうしてみよう」と思えるものだと思います。
まず問うべきは「数値を渡せているか」
「うちの社員は数字に弱くてね」
そう感じている経営者の方は少なくありません。
けれど一度、立ち止まって考えてみてもいいかもしれません。
その数字を、現場が見られる形で渡せているでしょうか。
稼働率、不良率、段取り時間…。経営者の頭の中にはあっても、現場の手元には届いていない。そういうケースは、思っているより多い気がします。
意識が低いのではなく、判断材料が渡っていないだけ。だとしたら、変えるべきは社員の姿勢ではなく、数字の見せ方のほうかもしれません。
まとめ:評価制度は「数字を現場に渡す」入り口になる
今回の出来事から私が感じたのは、評価シートづくりの本当の価値は、シートそのものではないということでした。
成果指標を決め、その指標を測り、見えるようにする。
そのプロセスの中で、これまで現場に渡せていなかった数字が、自然と表に出てくる。
そして数字が見えた瞬間に、管理者が前を向き、「現場にも共有したい」という声まで生まれてくる。
利益意識という、つかみどころのないものを高めたいと思ったとき、最初の一歩は意外と地味なところにあるのかもしれません。
それは、社内のどこかに眠っている数字を、もう一度ひとつの表にまとめ直してみること。
もし「現場の利益意識が低い」と感じることがあれば、その前に一度、「自分たちは現場に十分な数字を渡せているか」を確認してみてはいかがでしょうか。