最低賃金が上がったのに、求人に応募が来ない|中小企業の社長が決めたい「求人の給料」と3つの物差し
結論:最低賃金が上がると、近所の求人の給料がそろって「最低ライン+少し」に並びます。その中で給料だけを少し上げても、求職者から見れば違いはわずかです。 求人の給料は「最低賃金より少し上」ではなく、①近所の同じ仕事の求人の真ん中、②来年の最低賃金、③今いる若手の給料、の3つで決めます。そのうえで、入社してから給料がどう上がっていくかを求人に書けるようにしておくと、横並びから抜け出せます。
「最低賃金に合わせて求人の給料も上げた。それなのに、前より応募が来ない」
この秋、社長からよく聞く声です。2026年度の最低賃金は全国平均で1,177円、前の年から56円上がりました。どの会社も一斉に求人の給料を見直したため、求人票の金額が横並びになっています。
この記事では、最低賃金が上がった年に応募が来なくなる理由と、求人の給料をいくらにすればよいかを決める3つの物差しを、計算例で紹介します。最低賃金の引き上げで人件費がいくら増えるかは、別の記事で計算しています。
関連記事最低賃金が上がると、人件費はいくら増える?|中小企業の社長がすぐできる計算と対策最低賃金の引き上げで増える人件費を、自社の数字で計算する
なぜ、最低賃金が上がると応募が来なくなるのか
最低賃金が上がる年は、多くの会社がほぼ同じ時期に、ほぼ同じだけ求人の給料を上げます。すると、求職者の目にはこう映ります。
| 求職者が見る求人 | 月給(1か月160時間) |
|---|---|
| A社(製造・未経験可) | 19万0,000円 |
| B社(製造・未経験可) | 18万9,000円 |
| C社(製造・未経験可) | 19万2,000円 |
| 自社(製造・未経験可) | 19万1,000円 |
どれも「最低賃金を少し上回った金額」です。月に数千円の違いでは、求職者は決め手を持てません。結局、家からの近さや、会社の名前を聞いたことがあるかどうかで選ばれます。地元で名前が知られていない会社ほど、ここで不利になります。
もう一つ、見落とされがちな理由があります。最低賃金ぎりぎりの求人は、求職者に「この会社は給料を上げない会社かもしれない」と受け取られやすいことです。今年の金額より、「この先どうなるか」が見えないことが、応募をためらわせています。
支援先で起きていたこと
ある製造業の会社では、正社員と派遣の2本立てで人を募集していました。ところが、お盆を過ぎたころから正社員の応募が減りました。
紹介会社(成功報酬型)に頼む方法もあります。ただ、採用が決まると1人あたり約100万円。「同じことをやっても百万払わなきゃいけない」という声も出ました。紹介会社経由で来る人は、在職中に情報を集めている段階の人も多く、入社後のミスマッチも起きやすいという話でした。
印象に残っているのは、この会社の方が「人を増やせば忙しさは解消できても、利益が出なくなる。今の人員で利益が出る形と、適正な単価が先だ」と話されていたことです。求人の給料は「いくら払えば来るか」だけでなく、「いくらまでなら払い続けられるか」から考える。 この順番が大切だと、あらためて感じた場面でした。
求人の給料を決める3つの物差し
物差し1:近所の同じ仕事の求人の「真ん中」
まず、ハローワークや求人サイトで、車で通える範囲の、同じ職種・同じ雇用形態の求人を10件ほど並べてみます。月給を低い順に並べ、真ん中(5番目と6番目のあいだ)の金額を見ます。
- 真ん中より下 → 給料で選ばれることは、まずありません
- 真ん中あたり → 給料以外の材料(仕事の中身、将来の給料)で勝負できます
- 真ん中より上 → 給料で目に留まります。ただし、払い続けられるかを必ず確かめます
ポイントは、「業界の平均」や「全国の相場」ではなく、求職者が実際に見比べている近所の求人で見ることです。
物差し2:来年の最低賃金
最低賃金は、ここ数年、毎年50円以上上がっています。今年の最低賃金にぎりぎり合わせた給料は、来年には最低賃金を下回ります。
| 今年 | 来年(56円上がった場合) | |
|---|---|---|
| 最低賃金(時給) | 1,177円 | 1,233円 |
| 月給に直すと(160時間) | 18万8,320円 | 19万7,280円 |
| 求人の月給を19万円にしていると | 上回っている | 約7,300円下回る |
求人の給料を決めるときは、来年の最低賃金を上回る金額にしておくと、入社した年の秋にまた給料を直す、ということがなくなります。
物差し3:今いる若手の給料
最後に、求人の給料を今いる1〜3年目の社員の給料と並べます。
新しく入る人の給料が、2年目・3年目の先輩と同じか、上回っていないか。ここを見ないまま求人の給料だけを上げると、入ってくる人のために、今いる人のやる気を下げることになります。
| 社員 | 月給 |
|---|---|
| 3年目 | 19万6,000円 |
| 2年目 | 19万2,000円 |
| 求人(新しく入る人) | 19万5,000円 |
この並びでは、入ったばかりの人が2年目の先輩を上回り、3年目とも1,000円しか変わりません。求人の給料を上げるなら、先輩の給料も一緒に見直す必要があります。この「新人と先輩の差が縮む」問題は、別の記事で詳しく書いています。
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計算例:求人の給料を月1万円上げると、いくらかかるか
給料を上げるのは負担が大きい、と感じる社長は多いと思います。実際にいくらかかるかを計算してみます(※説明のためのモデルです)。
- 求人の月給を19万円 → 20万円(1万円)上げる
- 会社が払う社会保険料(法定福利費)を約15%とする
| 項目 | 計算 | 金額(年) |
|---|---|---|
| 給料の増加 | 1万円 × 12か月 | 12万円 |
| 法定福利費 | 12万円 × 15% | 約1.8万円 |
| 賞与への影響(基本給×2か月分の会社) | 1万円 × 2か月 × 1.15 | 約2.3万円 |
| 合計 | 約16万円 |
1人あたり年およそ16万円です。一方、紹介会社に頼めば1人約100万円。給料を1万円上げた分を6年続けても、紹介会社1回分に届きません。
ただし、ここで注意したいのは、上げるのは新しく入る人だけでは済まないことです。物差し3で見たとおり、先輩の給料も見直すなら、その分も含めて計算します。若手が5人いれば、年80万円前後です。
「いくらまでなら払い続けられるか」は、会社の利益から逆算して決めます。昇給にいくらまで使えるかの考え方は、こちらの記事にまとめています。
関連記事中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める3つの物差し世間相場・人件費の枠・評価ランクの3つで、今年の昇給額を決める
給料を上げるより効くこと:「この先の給料」を求人に書く
求人の給料を近所の真ん中まで上げたら、次にやりたいのは、入社してから給料がどう上がっていくかを、求人に書くことです。
たとえば、求人の欄にこう書けるかどうかです。
入社時 月給20万円 → 3年目のモデル 月給22万5,000円 → 班長(5年目前後)月給25万円〜
横並びの求人の中で、「この会社に入ったら、自分の給料がどうなるか」が分かる求人は、それだけで目に留まります。特に20代の求職者は、今の金額より先の見通しを気にしています。
ところが、これを書けない会社が少なくありません。理由はシンプルで、社内に給与表(給与の決まり方)がないからです。給与表がないと、「3年目にいくらになるか」は社長の頭の中にしかなく、求人には書けません。
求人の給料を上げても応募が来ないときは、求人票の書き方の前に、社内の給与の決まり方を整えるほうが、遠回りに見えて近道です。
よくある質問
Q. 最低賃金を下回らなければ、求人の給料はいくらでもいいのですか?
A. 法律上はそうです。ただし、最低賃金と比べるときは、基本給と毎月決まって払う手当の合計を、1か月の平均所定労働時間で割った金額で比べます。通勤手当・家族手当・残業代・賞与は含めません。「月給だから大丈夫」と思っていても、時給に直すと下回っている例は毎年あります。
Q. 時給を上げても、パートの応募が来ません。
A. パートの求人も、近所の求人の真ん中を見るところは同じです。そのうえで、パートは「働く時間の融通」や「勤続で時給がどう上がるか」を見て選ぶ人が多いので、時給の上がり方を書いておくと効果があります。
Q. 求人の給料を上げたら、今いる社員にも知られますか?
A. 求人票は誰でも見られるので、知られると考えておいたほうが安全です。今いる社員より高い金額で募集していると分かれば、不満につながります。求人の給料を決めるときは、必ず今いる社員の給料と並べてから決めてください。
Q. 紹介会社とハローワーク、どちらがよいですか?
A. 費用はハローワークが無料、紹介会社は成功報酬で年収の3〜4割前後が多いようです。どちらを使う場合も、求人に「将来の給料」が書けるかどうかで、来る人の数と質が変わります。
まとめ:求人の給料は「3つの物差し」で決め、将来の給料を見せる
- 最低賃金が上がる年は、近所の求人の給料が横並びになり、給料だけでは選ばれにくい
- 求人の給料は、①近所の同じ仕事の求人の真ん中、②来年の最低賃金、③今いる若手の給料、の3つで決める
- 月1万円上げると1人あたり年およそ16万円。紹介会社1回分の約100万円と比べて考える
- 横並びから抜け出す一番の材料は、「入社してから給料がどう上がるか」。書けない会社は、まず給与の決まり方を整える
採用がうまくいかないときに、条件より先に見直したいことは、こちらの記事でも書いています。
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