最低賃金が上がると、人件費はいくら増える?|中小企業の社長がすぐできる計算と対策
結論:最低賃金が56円上がると、会社の負担は1人あたり年およそ8万円(パート・月100時間)〜12万円(フルタイム)増えます。 ただし本当の負担は、最低賃金に近い社員だけでは終わりません。先輩との差を守るための調整分まで含めて計算しておくと、来年の値決めや昇給の判断がぶれなくなります。
2026年度の最低賃金は、全国平均で時給1,177円になりました。昨年度の1,121円から56円の引き上げです。
「うちはパートさんが中心だから、影響は大きいはず。でも、実際いくら増えるのかはつかめていない」
最低賃金が発表される秋になると、社長からこうしたご相談をいただきます。この記事では、最低賃金の引き上げで人件費がいくら増えるのかを、自社の数字で計算する手順を紹介します。
2026年度の最低賃金:全国平均で56円の引き上げ
まず、今年の引き上げを確かめておきます。
| 項目 | 2026年度 |
|---|---|
| 全国平均(加重平均) | 1,177円(昨年度 1,121円) |
| 引き上げ額 | 全国平均で56円(都道府県により54〜65円) |
| 新しい最低賃金になる日 | 10月1日〜12月2日にかけて、都道府県ごとに順次 |
引き上げ額は、目安制度が始まってから2番目の大きさです。自社の都道府県の金額と、新しい最低賃金になる日は、厚生労働省や都道府県の労働局のページで必ず確かめてください。
1人あたり、年いくら増えるのか
最低賃金で働く人の時給が56円上がったときの、会社の負担を1人あたりで見てみます。会社が払う社会保険料(法定福利費)を、およそ15%として計算しています。
| 働き方 | 1か月の労働時間 | 給与の増加(年) | 会社の負担(年・法定福利費込み) |
|---|---|---|---|
| パート | 100時間 | 約6.7万円 | 約7.7万円 |
| パート | 120時間 | 約8.1万円 | 約9.3万円 |
| フルタイム | 160時間 | 約10.8万円 | 約12.4万円 |
※56円×月の労働時間×12か月で計算。法定福利費は、働き方や加入状況によって変わります。
パートさんが10人いれば、それだけで年80万円前後。決して小さくない金額です。
自社の増加額を出す3ステップ
自社の数字で計算するときは、次の3ステップで進めます。
ステップ1:新しい最低賃金を下回る人を洗い出す
まず、新しい最低賃金を下回ってしまう社員を一覧にします。パートさんは時給で比べればすぐわかります。
見落としやすいのが、月給の社員です。月給の人も、時給に直して最低賃金と比べる必要があります。
- 時給に直した額 = 月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間
- 月給に入れないもの:通勤手当・家族手当・精皆勤手当・残業代などの割増賃金・賞与など
たとえば、1か月の平均所定労働時間が160時間の会社で、基本給と職務手当で月18万6,000円の新人は、時給に直すと1,162円。全国平均の1,177円を下回ります。「月給だから関係ない」と思っていた若手社員が対象になっていた、というのは毎年よくある話です。
ステップ2:差額×時間×12か月で、直接の増加額を出す
洗い出した人ごとに、次の式で計算します。
- (新しい最低賃金 − 今の時給)× 1か月の労働時間 × 12か月 × 1.15
1.15は法定福利費の分です。これが、最低賃金の引き上げで必ず増える人件費です。
ステップ3:先輩との差を守る調整分を足す
ここで終わらせると、実際の負担を読み違えます。
新人の給与だけを最低賃金に合わせて上げると、すぐ上の先輩との差が縮みます。差がほとんどなくなれば、先輩は「何年働いても新人と変わらない」と感じるでしょう。その差を守るために、すぐ上の層も少し上げる。この押し上げの分まで含めたものが、本当の負担です。
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1社の例で通してみます。この会社の都道府県の新しい最低賃金を、全国平均と同じ1,177円とします。
会社の前提(※数字は説明のためのモデルです)
- パート8名:時給1,130円・月100時間
- 新人の正社員3名:月給18万5,600円(時給に直して1,160円)・月160時間
- 2〜4年目の先輩5名:月給19万2,000円(時給に直して1,200円)
- そのほかの社員9名:最低賃金から十分に離れている
| 対象 | 今 | 新しい額 | 増加(年・給与) |
|---|---|---|---|
| パート8名 | 時給1,130円 | 時給1,177円(+47円) | 約45.1万円 |
| 新人3名 | 時給換算1,160円 | 1,177円(+17円=月2,720円) | 約9.8万円 |
| 先輩5名(差を守る調整) | 時給換算1,200円 | 1,217円(新人との差40円を維持) | 約16.3万円 |
| 合計 | 約71.2万円 |
法定福利費を含めると、年およそ82万円の負担増です。
注目したいのは、先輩5名の調整分の約16万円です。最低賃金を下回っていない人の分なので、法律上は上げなくても違反にはなりません。それでも、ここを放っておくと、新人と先輩の差が年々縮み、数年後には逆転しかねません。
さらに、残業代の単価や、基本給の何か月分で決めている賞与も、基本給が上がった分だけ増えます。実際の負担は、この計算より少し大きくなると見ておくのが安全です。
関連記事最低賃金が上がるたび、新人が先輩に追いつく|中小企業の給与表で「差」を守る3本の線最低賃金が上がるたびに縮む先輩との差を、給与表の3本の線で守る
見落としやすい3つの増加
1. 先輩・ベテランへの押し上げ
計算例のとおり、最低賃金に近い人を上げると、その上の層にも影響が及びます。押し上げを何年も見送ると、ある年にまとめて調整することになり、そのほうが負担は大きくなります。
2. 残業代と賞与への跳ね返り
残業代は時給をもとに計算されるので、最低賃金に合わせて上げた分だけ単価も上がります。賞与を「基本給×○か月」で決めている会社は、賞与も自動的に増えます。
3. 来年も、その次の年も上がる
最低賃金は、ここ3年、毎年50円以上上がっています。政府は2020年代のうちに全国平均1,500円を目標にしています。今年の増加額は、来年以降も続く負担の一年目と考えておく必要があります。
対策は3つ
対策1:増える人件費を、値決めに入れる
まずやりたいのは、増えた人件費を価格に反映させることです。計算例の会社なら、年82万円を粗利で稼ぎ直す必要があります。粗利率40%の会社なら、売上でおよそ205万円分です。取引先との価格交渉の前に、この数字を出しておくと、交渉の根拠になります。
対策2:給与表で「差」の線を引いておく
毎年の最低賃金に振り回されないためには、新人・一人前・リーダーの給与の線をあらかじめ決めておくことです。最低賃金が上がったら新人の線を上げ、ほかの線も決めた差を保ってついていく。こうしておけば、毎年「誰をいくら上げるか」で悩む時間が減ります。
対策3:1人あたりの粗利を増やす
設備や仕組みに投資して、同じ人数でこなせる仕事を増やすことも欠かせません。人件費が増えても、1人あたりの粗利がそれ以上に増えていれば、会社の体力は落ちません。毎年増える人件費を、どの仕事の効率化で取り戻すのかを、年に一度決めておくことをおすすめします。
よくある質問
Q. 新しい最低賃金は、いつから払えばよいですか?
A. 都道府県ごとに決まった日(2026年度は10月1日〜12月2日の間)からです。給与の締め日の途中で変わる場合は、変わった日以降の労働時間分から新しい金額で計算します。
Q. 月給の社員も、最低賃金の対象ですか?
A. 対象です。月給を1か月の平均所定労働時間で割って時給に直し、最低賃金と比べます。通勤手当・家族手当・精皆勤手当・残業代・賞与などは、比べる額に入れません。
Q. 最低賃金を下回る人だけ上げれば、問題ありませんか?
A. 法律上はそれで足ります。ただ、すぐ上の先輩との差が縮み、不満や退職につながることがあります。最低賃金を下回る人と、その上の層を一緒に見て、差をどう保つかを決めておくことをおすすめします。
Q. 増えた分を、賞与を減らして吸収してもよいですか?
A. 賞与の決め方によっては可能です。ただ、毎年続く負担を賞与だけで吸収し続けるのは難しく、社員から見ると「時給は上がったのに年収は変わらない」と映ります。値決めや給与表の見直しとあわせて考えるのが現実的です。
関連記事中小企業の昇給額の決め方|今年いくら上げるかを、社長が根拠をもって決める3つの物差し世間相場・人件費の枠・評価ランクの3つで、今年の昇給額を決める
まとめ:まず「本当の増加額」を出す
最低賃金の引き上げで増える人件費は、次の3つを足したものです。
- 最低賃金を下回る人を引き上げる分(パート・月給の若手も)
- 先輩との差を守るための、押し上げの分
- 残業代や賞与への跳ね返り
この合計を一度出しておくと、値決め・昇給・賞与の判断が、同じ数字の上でできるようになります。
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出典:厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」(2026年9月3日公表)
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