中小企業の給与テーブルの作り方~社員の納得感と給与バランスを整えるシンプル設計~
「給与は、その都度なんとなく決めている」
「中途採用のたびに、いくら提示すべきか悩む」
「長く働く社員とのバランスが取りづらい」
こうした悩みは、中小企業ではよくあります。
給与テーブルがない会社では、採用時も昇給時も判断が場当たり的になりやすく、少しずつ給与バランスが崩れていきます。
この記事では、中小企業が実務で使える給与テーブルの考え方と作り方を、できるだけシンプルに解説します。
給与制度全体の考え方を整理したい方は、こちらの記事も参考にしてください。
→ 中小企業の給与制度見直し完全ガイド
この記事でわかること
・給与テーブルとは何か。
・中小企業に給与テーブルが必要な理由。
・運用しやすい給与テーブルの作り方。
・給与テーブルを作るときの注意点。
給与テーブルがない会社で起きやすい3つの問題
給与テーブルがない会社では、給与の決め方がその場の判断になりやすくなります。
採用や昇給のたびに個別判断を繰り返すことで、少しずつ給与バランスが崩れていくこともあります。
ここでは、給与テーブルがない会社でよく起きる3つの問題を整理します。
問題1 給与の決め方が場当たり的になる
給与テーブルがない会社では、採用時や昇給時の給与をその都度判断することになります。
例えば
・採用するために、このくらいは払わないと来ない
・去年より少し上げておこう
・この社員は頑張っているから少し多めに
このような判断が重なっていくと、給与の決まり方に一貫性がなくなります。経営者自身も、毎年昇給のたびに「いくら上げるべきか」と悩むことになります。
給与テーブルは、こうした場当たり的な判断を減らし、給与の決め方に一定の基準を持たせるための仕組みです。
問題2 中途社員と既存社員の給与バランスが崩れる
最近特に増えているのが、中途採用と既存社員の給与バランスの問題です。採用市場が厳しくなる中で、採用のために給与を高めに設定する会社が増えています。
例えば
新しく採用した社員 月給28万円
長く働いている社員 月給26万円
このようなケースが起きることがあります。
採用のための判断自体は決して間違いではありません。
ただし給与テーブルがない会社では、その後の給与バランスを整えることが難しくなります。
既存社員からすると「長く働いているのに新人の方が給料が高い」という不満につながることもあります。
給与テーブルがある会社では、「この役割ならこの給与レンジ」という基準があるため、こうした調整がしやすくなります。
問題3 昇給の上限が見えず人件費が積み上がる
もう一つ見落とされやすいのが、昇給の上限がないまま給与が積み上がっていく問題です。
基本給は一度上げると固定費として残ります。そのため、毎年なんとなく昇給を続けていると、役割以上に給与だけが上がっていくことがあります。
例えば
・仕事内容は大きく変わっていない
・役割も広がっていない
・しかし勤続年数だけで基本給が上がり続けている
このような状態になると、給与水準と役割水準のバランスが崩れやすくなります。
給与テーブルは、給与を抑えるためのものではありません。
どの役割に対して、どこまで給与が上がるのかを整理するための仕組みです。
給与テーブルとは?
給与テーブルとは、社員の等級や役割ごとに、どのくらいの給与水準を想定するかを整理した表のことです。
例えば
一般職 20万円~24万円
主任 24万円~28万円
係長 28万円~33万円
課長 33万円~40万円
このように、役割ごとの給与レンジを見える形にしたものが給与テーブルです。
給与テーブルを作ることで
・給与の決め方に基準ができる
・昇給の方向性が見える
・採用時の給与を決めやすくなる
といったメリットがあります。
給与テーブルと昇給表の違い
給与テーブルと似た言葉に「昇給表」があります。
この2つは似ているように見えますが、役割は少し異なります。
給与テーブルは、等級や役割ごとの給与水準を整理するものです。
つまり「どの水準帯にいるか」を見るためのものです。
一方で昇給表は、評価や号俸などに応じてどのくらい給与が上がるかを整理するものです。
つまり「どのように上がっていくか」を見るためのものです。
給与テーブルは給与水準の整理、昇給表は昇給の仕組みの整理と考えると分かりやすいでしょう。
中小企業に給与テーブルが必要な理由
給与テーブルを持つことで、給与の決め方に一貫性が生まれます。
例えば
・採用時の給与提示
・昇給時の判断
・役割と給与のバランス
こうした判断がしやすくなります。
給与テーブルがない会社では、給与の判断がその場の判断になりやすくなります。
一方で給与テーブルがある会社では、「この役割ならこの給与水準」という目安があるため、経営判断が整理されやすくなります。
給与テーブルは単なる給与表ではなく、給与の判断を支える土台になります。
中小企業の給与テーブルの作り方【5ステップ】
給与テーブルを作ると聞くと、難しい制度をイメージする方もいるかもしれません。
しかし中小企業では、シンプルな考え方で十分に機能する給与テーブルを作ることができます。
ここでは、実務で使いやすい給与テーブルの作り方を5つのステップで紹介します。
STEP1 社員区分と役割(成長ステージ)を整理する
まず最初に、どの社員を同じ土俵で考えるのかを整理します。
例えば会社には、次のような社員区分があります。
・正社員
・パート社員
・管理職
給与テーブルを作るときは、まずこのような社員区分ごとに整理します。
そのうえで、次に考えるのが社員の成長ステージです。
多くの会社では、社員の成長段階にはある程度共通した流れがあります。
例えば
・新人として仕事を覚える段階
・一人前として業務を任される段階
・チームをまとめる段階
・部門をまとめる段階
・経営を補佐する段階
会社ごとに呼び方は異なりますが、おおよそこのような成長の段階があります。
これを分かりやすく整理すると、例えば次のようなステージになります。

このように社員の成長ステージを整理しておくことで
・どの役割に対してどの給与水準なのか
・どこまで昇給していくのか
といった給与テーブルの土台が作りやすくなります。
給与テーブルは、役割の違いが見える状態で作らないと機能しにくくなります。
そのため、まずは自社の社員がどのような成長段階をたどるのかを整理することが重要です。
STEP2 等級ごとの給与レンジを決める
次に、それぞれの役割ごとに給与の幅を決めます。
例えば、次のようなイメージです。
たとえば、以下のように設定している企業もあります。
| ステージ | 金額 |
|---|---|
| 1 | 20~24万円 |
| 2 | 24~28万円 |
| 3 | 28~33万円 |
| 4 | 33~40万円 |
このように成長ステージごとに給与レンジを設定することで
・給与の上限
・昇給の方向性
・役割ごとの給与水準
が整理されます。
ここで重要なのは、最初からきれいな表を作ろうとすることではありません。
自社として「この役割ならこのくらいの給与水準」と説明できる基準を作ることです。
給与レンジを決めるときは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
まず最初に決めるのが、初任給の水準です。
初任給は、採用市場や地域の相場、業界水準などを参考にしながら決めます。採用が難しい職種であれば、相場よりやや高めに設定することもあります。
次に、社員の成長ステージに応じた給与の上がり方を考えます。
ここで有効なのが、いくつかの社員モデルを作ることです。
例えば
・新卒で入社し順調に成長する社員
・中途で入社し数年で主任になる社員
・長く経験を積みながら技能を高める社員
このようなモデルを作り、
「どのくらいの年数でどのステージに成長するか」
「そのとき給与水準はどのくらいになるか」
をイメージしていきます。
例えば
| 年数 | ステージ | 金額 |
|---|---|---|
| 入社後 | 1:新人 | 22万円 |
| 3年後 | 2:一人前 | 24万円 |
| 6年後 | 3:主任レベル | 27万円 |
| 10年後 | 4:係長レベル | 31万円 |
といった形で、成長と給与の関係を整理します。
こうした社員モデルをいくつか作ることで、給与の上がり方のイメージが見えてきます。
そのうえで
・業界や地域の給与相場
・自社の人件費水準
・現在の社員の給与分布
などと比較しながら、各ステージの給与レンジを調整していきます。
このように
「成長ステージ」
「社員モデル」
「相場との比較」
という順番で考えると、中小企業でも実務で使いやすい給与テーブルを作りやすくなります。
ここまでで、給与テーブルの土台となる「役割」と「給与レンジ」を整理しました。
給与制度全体の考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
STEP3 昇給の考え方を決める
STEP2では、社員モデルを作りながら「どのくらいの水準まで給与が上がるのか」を整理しました。
次に決めるのは、その給与がどのように上がっていくのかという昇給ルールです。
給与テーブルがあっても、昇給のルールが決まっていなければ、結局はその都度の判断になってしまいます。
そこで、どのような場合に給与が上がるのかを整理しておきます。
例えば次のような考え方があります。
・評価結果に応じて昇給する
・ステージが上がったときに昇格昇給する
・スキル習得や担当業務の拡大に応じて昇給する
多くの会社では、これらを組み合わせながら昇給を決めています。
例えば
・通常の昇給は評価結果によって決まる
・ステージが上がるときには昇格昇給を行う
といった形です。
このように昇給の考え方を整理しておくことで、
・どのような努力が給与につながるのか
・どのタイミングで昇給するのか
が分かりやすくなります。
給与テーブルと昇給ルールがつながることで、給与制度としての全体像が整い、実際の運用もしやすくなります。
STEP4 現在の社員を当てはめて確認する
給与テーブルを作ったら、現在の社員を実際に当てはめてみます。
確認したいポイントは次の通りです。
・役割に対して給与が高すぎる人はいないか
・逆に低すぎる人はいないか
・中途社員と既存社員のバランスはどうか
・管理職と一般職の差は適切か
ここで大きなズレが見つかることもあります。
ただし、すぐに全員を理想形に修正する必要はありません。
まずは全体のバランスを把握することが大切です。
STEP5 社員説明と運用ルールを決める
最後に重要なのが、社員への説明と運用ルールです。
給与テーブルを作っても、社員に説明されていなければ意味がありません。
例えば
・昇給時の説明
・昇格時の給与変更
・中途採用時の給与決定
こうした場面で、給与テーブルをどのように使うかを整理しておきます。
制度は作ることよりも、運用できることが大切です。
給与テーブルのシンプルな例
給与テーブルは、最初から複雑に作る必要はありません。
例えば次のような形でも十分に機能します。
例えば
| ステージ | 開始額 | 上限額 |
|---|---|---|
| 1:新人 | 20万円 | 24万円 |
| 2:一人前 | 24万円 | 28万円 |
| 3:主任レベル | 27万円 | 32万円 |
| 4:係長レベル | 31万円 | 40万円 |
このように役割ごとに給与レンジを整理するだけでも
・給与の方向性が見える
・昇給の目安ができる
・採用時の判断がしやすくなる
といった効果があります。
中小企業が運用しやすい給与テーブルのポイント
中小企業で最も重要なのは、制度をシンプルにすることです。
制度を作ろうとすると、つい細かいルールを増やしてしまうことがあります。しかし制度が複雑すぎると、運用が難しくなります。
中小企業の場合は
・役割
・給与レンジ
・昇給の考え方
この3つが整理されていれば、十分に機能するケースが多いです。
制度は立派であることよりも、毎年運用できることの方が重要です。
給与テーブル設計でよくある失敗
給与テーブルは会社の給与水準を整理するための重要な仕組みですが、作り方を間違えると、かえって運用しにくい制度になってしまうこともあります。
ここでは、実際の中小企業でよく見られる失敗を整理します。
相場だけで給与を決めてしまう
給与テーブルを作るとき、求人市場の相場だけを見て給与水準を決めてしまうケースがあります。
例えば
「この職種は月給25万円くらいが相場だから」
といった形で給与水準を決めてしまうケースです。
もちろん採用市場の相場は重要な判断材料です。
しかし、相場だけを基準に給与を決めると、社内の役割バランスが崩れることがあります。
例えば
・新人とベテランの給与差が小さくなる
・管理職と一般社員の差が縮まる
・長く働くメリットが見えにくくなる
といった問題が起きることがあります。
給与テーブルは「採用市場」と「社内の役割バランス」の両方を見ながら設計することが重要です。
制度を細かく作りすぎる
制度をしっかり作ろうとするあまり、細かいルールを作りすぎてしまうケースもよくあります。
例えば
・号俸が細かく分かれすぎている
・昇給計算が複雑になっている
・評価結果と昇給計算が複雑に連動している
といった制度です。
こうした制度は、制度設計の段階ではきれいに見えます。
しかし実際の運用では、次のような問題が起きやすくなります。
・昇給計算が複雑で管理が大変になる
・管理者が制度を理解できない
・社員に説明しづらくなる
中小企業では、制度の精密さよりも「運用できること」が重要です。
シンプルで分かりやすい制度の方が、結果的に長く機能することが多くなります。
現在の社員とのズレを見ない
給与テーブルを作るとき、理想の給与水準だけを考えてしまうケースがあります。
例えば
「このくらいの給与体系が理想だ」
という形で制度を作っても、現在の社員の給与水準と大きくズレていると、実際には運用できません。
例えば
・現在の社員の給与がレンジの外に多く存在する
・役割と給与の関係が大きくずれている
・調整に長い期間が必要になる
といった問題が起きることがあります。
給与テーブルを作るときは、現在の社員を実際に当てはめてみることが重要です。
現状と理想の差を確認しながら、現実的に運用できる制度を設計していくことが必要になります。
昇給ルールとつながっていない
給与テーブルを作っても、昇給ルールが整理されていないケースもよくあります。
例えば
・給与レンジはあるが昇給額は毎年社長判断
・評価制度はあるが昇給と連動していない
・昇格と昇給の関係が決まっていない
といった状態です。
この場合、制度としての形はあっても、実際の給与決定は結局その場の判断に戻ってしまいます。
給与テーブルは、昇給ルールとセットで設計することで初めて機能します。
どのような場合に昇給するのか。
どのタイミングでステージが上がるのか。
こうしたルールを整理することで、給与制度としての一貫性が生まれます。
給与テーブルを作ると会社はどう変わるか
給与テーブルが整理されると、社員の納得感が高まりやすくなります。
また採用時の給与提示や昇給判断がしやすくなり、経営判断として給与を整理できるようになります。
給与テーブルは、単なる給与表ではなく
・人件費管理
・採用判断
・人材育成
をつなぐ仕組みでもあります。
ここまで説明してきた給与テーブルですが、これは給与制度の一部にすぎません。
実際には
・昇給ルール
・評価制度
・給与水準の考え方
と合わせて整理することで、制度として機能します。
給与制度の全体像については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 給与制度見直し完全ガイド
まとめ 給与テーブルは給与の判断を支える土台になる
給与テーブルは、単に給与を一覧にした表ではありません。
どの役割に対して、どのくらいの給与水準を想定するのか。
どこまで昇給していくのか。
採用や昇給の判断をどの基準で行うのか。
こうした判断を整理するための土台になります。
もし今
・中途社員との給与バランスに悩んでいる
・昇給のたびに判断がぶれている
・社員に給与の説明がしづらい
このような状況がある場合は、一度給与テーブルを見直してみる価値があります。
最初にやるべきことは一つです。
自社では「どの役割に対して、どのくらいの給与水準を想定しているのか」。
まずはここを言葉にして整理してみることをおすすめします。