昇格しても手取りが変わらない管理職に、共通して見えること
「課長にしたのに、なんか不満そうで…」
そんな相談を受けることがあります。
社員数40名ほどの製造業の会社でのことです。長年頑張ってきた社員を課長に昇格させた。年収600万円を保証する約束もした。それなのに、昇格してから数ヶ月で「思っていた待遇と違う」という言葉が本人の口から出てきた。
経営者にとっては、心当たりがない。誠意を持って処遇したつもりだから、余計に戸惑う。
話を聞いていくと、多くの場合、給与の「構造」に問題があることが多い。
昇格して役職がついた。でも、手取りはほとんど変わっていない。
こういう状況が続くと、管理職になることへの意欲がなくなるのも、無理はないかもしれません。
今回は、この「昇格したのに手取りが変わらない」問題の背景と、見直すときのポイントについてお伝えします。
管理職の給与、どう設計されていますか
課長クラスの給与を設計するとき、よくあるのが「年収〇〇万円を保証する」という約束から始まるケースです。
「600万円は出してあげるよ」
そう伝えて昇格させる。経営者としては誠意のある提示のつもりです。
ところが、実際の給与明細を見てみると、思わぬ問題が起きていることがあります。
「600万円」の中身が、曖昧だった
年収600万円というのは、基本給だけなのか。残業代を含んだ金額なのか。
ここが曖昧なまま設計されていると、思わぬすれ違いが生まれます。
たとえば、基本給を月35万円(年収420万円相当)に設定して、残業代で残りを補おうとするケース。
残業が多い月は確かに手取りが増えます。でも、残業が少ない月は… 当然、手取りも減る。
「600万円のはずなのに、今月は手取りが少なかった」という感覚が、じわじわと不満に変わっていきます。
管理職になると、残業代が「消える」ことがある
もう一つ見落とされがちなのが、管理職になったことで残業代の支給方法が変わるケースです。
労働基準法では、「管理監督者」に該当する場合、残業代の支払い対象外になります。ただし、この「管理監督者」の要件は思っているより厳しい。
権限・待遇・実態の三つが揃っていないと、法的には管理監督者とは認められません。
それでも、「課長になったから残業代は出さない」という運用をしている会社は少なくありません。
昇格前は残業代が毎月5〜10万円ついていた。昇格後はそれがゼロになった。
役職手当が月3万円つくようになったとしても、差し引きでマイナスになることがあります。
「昇格したのに給料が下がった」という現実
これは極端なケースに見えるかもしれませんが、実際の現場では珍しくない話です。
昇格を告げられた社員が、手取りを計算してみてがっかりする。そういう経験をした人が、次の昇格候補者に「課長になっても旨みはないよ」と話してしまう。
組織の中で、管理職になることへのネガティブな空気が広がっていく。
こういう連鎖が、静かに起きていることがあります。
よくある対応の落とし穴
こういう問題が起きたとき、多くの会社は「役職手当を少し上げれば解決する」と考えます。
確かに、それで解消するケースもあります。でも根本的な問題は、設計そのものの構造にあることが多い。
役職手当で表面的に対処しても、残業代の扱いが曖昧なままだと、同じ問題が繰り返されます。
また、課長本人が「自分の年収がどう計算されているのか」を理解できていないことも、見落とされがちな問題のひとつです。
明細を見ても、何がどう計算されているのかわからない。そういう状態では、「正当に評価されている」という感覚も持ちにくい。
賃金の中身を本人に丁寧に説明する、という当たり前のことが、意外と抜けていることがあります。
もう一つ、見落とされがちなのが「昇格のタイミング」の問題です。
残業が多い繁忙期に合わせて昇格させると、昇格直後は手取りが高く見える。でも落ち着いた時期になると、一般社員のころと大差ない金額になる。
「最初と話が違う」という感覚は、こういう時期のズレから生まれることもあります。
昇格のタイミングと給与設計は、セットで考える必要があるかもしれません。
給与設計を見直すとき、確認したいこと
では、どこから手をつければいいのか。
管理職の給与設計を見直すとき、まず確認したいのは「年収〇〇万円」の内訳です。
基本給・役職手当・残業代の内訳を明確にする
「年収600万円」と言うとき、その内訳はどうなっているか。
基本給×12ヶ月で、どこまで届くのか。
役職手当はいくらか。
残業代はどう扱うのか。
この三つを明確にするだけで、設計のズレが見えてきます。
特に、「残業代を含むかどうか」は、管理職と一般社員で扱いが異なる場合があるため、丁寧に確認する必要があります。
昇格前後の手取りを比較する
実際に数字を出してみることが大切です。
昇格前の月収(基本給+残業代の平均)と、昇格後の月収(基本給+役職手当)を並べてみる。
このシミュレーションをやってみると、「実は昇格で手取りが下がっていた」というケースが見えてくることがあります。
特に、残業が多い部署から管理職になった社員は要注意かもしれません。
「管理監督者」の要件を改めて確認する
残業代を支払わない運用をしている場合、その社員が法的に管理監督者の要件を満たしているかを確認することも大切です。
権限(採用・解雇・労働条件の決定に関与できるか)、待遇(一般社員より優遇されているか)、実態(出退勤を自由にコントロールできるか)。
これら三つの観点から、現状の運用が適切かどうかを、社労士などの専門家と一度確認してみることをおすすめします。
管理職が「なりたい」と思える設計へ
給与の設計は、単に「いくら払うか」だけの話ではありません。
昇格することへの期待感を持てるかどうか。
管理職になっても手取りが変わらない、あるいは下がるとなれば、誰も上を目指さなくなるかもしれません。
「ちゃんと評価された人が、ちゃんと報われる」という感覚を持てる設計になっているかどうか。
これは、会社の将来の幹部を育てる土台にもなる話です。
もし御社の管理職の給与設計に少し引っかかりを感じているなら、まず昇格前後の手取りを比較するところから始めてみてはいかがでしょうか。
今の課長たちは、昇格してよかったと感じているでしょうか。
経営者が「ちゃんと出しているつもり」でも、課長本人が「あまり変わっていない」と感じているとしたら、そのすれ違いは設計の問題かもしれません。
そこを起点に、給与の構造を一度見直してみることをおすすめします。
小さな数字のズレが、大きな不満の種になっていることは、思いのほか多いものです。そして、その不満は本人から言い出しにくいぶん、気づいたときには取り返しがつかない状態になっていることがあります。