社員20〜100名規模の経営者様へ。人事担当不在の組織を支える、判断軸の提供。

「給与も休みも改善した。なのに、なぜ若手から辞めていくのか?」―離職防止の盲点と、経営者の「物差し」の作り方

  
\ この記事を共有 /
「給与も休みも改善した。なのに、なぜ若手から辞めていくのか?」―離職防止...

「これ以上、何をすればいいんだ」という静かな絶望

「伊東さん、もう打てる手は全部打ったつもりなんです」

ある精密加工メーカーの社長が、力なくおっしゃいました。 会議室のテーブルには、最近改定したばかりの就業規則や、福利厚生を充実させた福利厚生代行サービスのパンフレットが置かれています。

離職が続いた時期、社長は必死でした。 相場以上の昇給を行い、残業を減らすために設備投資もした。社員の誕生日にメッセージを添えることも欠かさない。 それなのに、また一人、若手のホープが「一身上の都合」と書かれた封筒を置いていきました。

「条件は悪くないはずだ。人間関係だって、私が間に入って調整している。なのに、なぜみんな背中を向けてしまうんだろう?」

目に見える「不満」を一つずつ潰してきた経営者は、「良かれと思って打った対策が、空を切っている」という言いようのない虚無感を感じていました。

「世の中の正解」ももちろん有効だが・・・

人が辞め始めると、真面目な経営者ほど「世の中の正解」を探しに行きます。

  • 「給与相場」を見直し、他社に負けない額を提示する
  • 「1on1」を導入し、定期的に声を拾う場を作る
  • 「評価制度」を明文化し、頑張りを見える化する

これらはどれも、人事の教科書に載っている正しい施策です。経営者が打つ正しい策であり、決して否定されるべきものではありません。

しかし、ここに落とし穴があります。 外側の「手法(How)」を取り入れることに必死になればなるほど、実は経営者自身の「なぜここで働いてほしいのか」という大事な視点が、置き去りになってしまうことがあるのです。

「不満がないこと」と「満足していること」の決定的な違い

「給与も休みも文句はありません。でも、この先自分が活躍しているイメージが持てないんです」

退職を決めた社員の本音をひも解くと、そんな言葉が漏れてくることがあります。 経営者が懸命に整備した「基準(条件・制度)」は、確かに社員の不満を和らげます。しかし、不満がなくなったからといって、自動的に「ここで働き続けたい」という意欲につながるわけではないのです。

不満を解消するのは「環境」ですが、意欲に働きかけるのは「関係性と意味」です。 もし、対策を打っても離職が止まらないのだとしたら。それは努力不足ではなく、「原因の見立て」が、ほんの少し本質からズレているのかもしれません。

見えない「ズレ」を引き起こす3つの構造的盲点

現場に深く入り込むと、経営者が気づきにくい「3つの盲点」が浮かび上がってきます。これらは制度という目に見える形では解決できない、もっと根源的な問いです。

1. 「役割」の曖昧さ:期待という名の「丸投げ」になっていないか

中小企業の強みは「多能工」であることですが、それは一歩間違えると「何でも屋」としての疲弊を生みます。 経営者は「君ならできる」と信頼を寄せているつもりでも、本人は「自分は何の専門家として、この会社に貢献しているのか」という手応えを見失っていることがあります。 「何のために、今の苦労があるのか」という、役割の軸が見えない不安は、昇給だけでは拭えません。

2. 「期待」の言語化不足:経営者の「頭の中」に、社員を置き去りにしていないか

経営者は、数年後の会社の姿と、そこで活躍する社員の姿をセットで思い描いています。しかし、そのイメージを「あなたに、こうなってほしい」という生身の言葉で伝えているでしょうか。 「言わなくても背中を見ていればわかる」という期待は、今の時代の社員には届きにくい。明確な言葉による「指針」がない場所で、社員は自分の成長が止まってしまう恐怖を感じるのです。

3. 「承認」の質:結果という「数字」だけを、見てはいないか

「売上が上がった」「納期を守った」といった結果への称賛は、もちろん大切です。 しかし、人は「結果を出したときだけ価値がある」と感じると、失敗を恐れ、萎縮し始めます。 結果が出る前の試行錯誤、苦労しているプロセス、そしてその人自身の「こだわり」。 制度としての評価ではなく、こうした「存在そのものへの関心」が欠けたとき、社員の心は静かに離れていきます。

問題は『仕組み』の不足ではなく、社員を見る『ピント』のズレにある

離職防止という難問に直面したとき、多くの経営者は「どんな制度(定規)を導入すればいいか」と外に答えを求めます。 しかし、本当の解決の糸口は、外側のルールブックではなく、経営者の内側にある「自社なりの物差し」にあります。

  • 「わが社における役割とは何か」
  • 「何を持って、貢献とみなすのか」
  • 「私は社員に、どんなキャリアを歩んでほしいのか」

この「ピント」が曖昧なまま、どれだけ高価な制度(定規)を買ってきても、自社の現実に当てはめることはできません。 離職が続くのは、経営者の想いが足りないからではありません。想いを「言語化」し、「構造化」するプロセスが、ほんの少し足りなかっただけなのです。

「正解」を導入する前に、一度「軸」を削り出す

「また人が辞めてしまうかもしれない」という不安を抱えながら、それでも会社を良くしようと模索し続ける経営者の皆様を、私は心から尊敬しています。

もし今、これ以上の対策が見つからないともどかしさを感じているなら、一度「新しい施策」を考えるのを止めてみませんか。 まずは、経営者であるあなたの内側にある「この会社で働く意味」を、もう一度言葉にしてみる。

「なぜ、彼(彼女)にこの仕事を任せているのか」
「私は、彼らの何を見て『ありがとう』と言いたいのか」

その「自分なりの物差し」が明確になったとき、驚くほど自然に、社員への言葉が変わり、接し方が変わり、そして組織の空気が変わっていきます。

対策を増やす前に、一度「ピント」を見直すという選択肢を

「これ以上、何をすればいいのかわからない」 そう感じたときは、新しい制度を探すのを一旦止めて、あなたの内側にある「想い」を言葉にすることから始めてみませんか。

「正解」を外側に求めず、あなた自身の「納得」を軸に据える。 そのピントのズレを少し直すだけで、組織の空気は驚くほど変わり始めます。

「外側の正解」に合わせるのではなく、あなた自身の「納得」を軸に据える。 その見立てを少し整えるだけで、離職防止は「苦しい対策」ではなく、「強い組織を作るための対話」へと変わっていくはずです。

もし今、一人で考え込んでモヤモヤしているのなら、壁打ち相手として気軽にお話しください。 社外の人間だからこそ、フラットな視点で整理をお手伝いできるかもしれません。

コメント

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です