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採用がうまくいかない本当の理由は、条件ではなく「会社の覚悟」が伝わっていないから

  
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採用がうまくいかない本当の理由は、条件ではなく「会社の覚悟」が伝わってい...

「伊東さん、やっぱり、あと少し賃金を上げるしかないんでしょうか……」

ある経営者の方が、スマートフォンの画面に表示された自社の求人広告を見つめながら、ポツリと漏らされました。「それとも、休みが少ないのかな。これ以上、何をどう直せば人が来るんでしょうか」

ため息混じりのその声には、単なる「人手不足」への焦りだけでなく、自社という存在そのものが社会から否定されているような、言いようのない寂しさが混じっているように感じました。

これまで、多くの採用現場に立ち会ってきましたが、求人がうまくいかないときに経営者の胸をかすめるのは、単なる「応募数」への不満ではありません。

「結局、うちの会社には魅力がないということか?」

という、誰にも言えない孤独な問いと、何とも表現しがたい「違和感」です。今回は、その違和感の正体と、中小企業が条件合戦に巻き込まれずに「選ばれる」ための本質についてお話しします。

採用の正体:それは条件の比較ではなく「不安の比較」である

「給料を上げれば人が来る」「休みを増やせば応募が増える」――。確かに、それらは求職者の目を引くフックにはなります。しかし、今の時代、求職者はそれほど単純ではありません。

彼らは求人票を見るとき、数字の奥にある「本当の会社像」を必死に探しています。

  • 「ここで私は、誰と、どんな顔をして働くことになるのか」
  • 「もし失敗したとき、この会社は私をどう扱うのか」
  • 「この社長は、苦しいときに何を優先する人なのか」

採用の正体は、条件の比較ではなく「不安の比較」です。

求職者は、新しい環境に飛び込むことに対して大きな恐怖を感じています。条件(給与や休日)だけが綺麗に整っていても、肝心の「人」や「仕事の厳しさ」、そして「社長の想い」が見えない求人は、求職者にとって、ある意味で「正体のわからない怖い場所」に映ります。

どれほど好条件を並べても、「ここでやっていける」という確信が持てない限り、彼らは応募ボタンを押しません。中小企業が陥りがちな罠は、この「怖さ」を残したまま、数字や条件だけを判断基準に人を呼ぼうとすることにあります。

現場で積み重なる「3つの違和感」を放置してはいけない

私がコンサルティングの現場で、経営者と一緒に求人票を眺める際、あえて立ち止まって確認する「3つの違和感」があります。

1. 「給料が低いから人が来ない」という思考停止

確かに、他社と比べて数万円低いかもしれません。しかし、もし仮に給与を相場以上に上げたとしても、応募が来なかったら次は何を理由にするのでしょうか。「条件のせい」にすることは、経営者にとって最も楽な逃げ道になってしまいます。しかし、それは同時に「自社の本当の魅力」を磨くことを諦めることと同義です。

2. 「福利厚生を盛ればいい」というパッケージ思考

「アットホームな職場」「丁寧な研修あり」。どの求人媒体でも見かける借り物の言葉を並べていませんか? 現場の「リアルな手触り」がない言葉は、今の求職者には驚くほど響きません。むしろ、「何かを隠しているのではないか」という不信感を与えてしまいます。

3. 「プロに任せているから大丈夫」という過信

求人広告の代理店は、多くの人に情報を届け、ページを整える「見せ方」のプロです。しかし、会社の奥底にある「経営者の覚悟」までを代わりに産み落としてくれるわけではありません。
社長の熱量を100としたとき、営業担当者を通じて原稿になる頃には、それは20くらいに薄まってしまうこともあります。薄まった20の熱量で、見知らぬ誰かの人生を動かすことは不可能なのです。

なぜ私は「すぐに出し方を変えましょう」と言わなかったのか

こうした違和感を抱える経営者に対し、私はあえて「こう書き直せば応募が増えますよ」という即効性のあるテクニックをすぐには提示しません。

なぜなら、小手先のキャッチコピーで人を集めても、経営者の心の中にある「うちは選ばれないのではないか」という根本的な不安は消えないからです。むしろ、実態以上に背伸びした表現でミスマッチな人が入社し、数ヶ月で辞めていくことになれば、会社も社員も不幸になり、経営者の傷はさらに深まってしまいます。

私がまず提案したのは、「では、なぜ今の条件でも、既存の社員たちは日々ここで働いてくれているのでしょうか?」という問いを一緒に掘り起こすことでした。

  • 昼休みに談笑しているあの二人は、なぜうちを選んだのか?
  • きつい現場でも、お客様のために踏ん張ってくれる社員は、何に価値を感じているのか?

「採用はテクニックではなく、会社の姿勢が滲み出る活動そのものである」。この本質に立ち返り、社長自身の言葉で「うちはこういう想いで仕事をしている」と語れるようになること。その整理がつくまで、媒体のプランを上げることも、安易な賃上げも、一度止めていただきました。

「覚悟」を言語化する:向いていない人へのメッセージ

採用を「集めること」だと定義すると、つい「いいこと」ばかりを書きたくなります。しかし、本当に強い組織を作るための採用は、「残って欲しい人以外をふるいにかける」ことが大事です。

そのためには、あえて「うちには向いていない人」を言語化する勇気が必要です。

  • 「うちはマニュアルがありません。自分で考えて動けない人には、正直きつい職場です」
  • 「お客様の満足のためには、妥協を許さない社風です。楽をして稼ぎたい人には合いません」

このように、あえて線を引くことで、その線を越えてきた「覚悟のある人」だけが残ります。この「引き算の採用」こそが、中小企業の離職率を下げ、組織を強くする道です。

条件で釣った人は、より良い条件の会社が現れればすぐに去ります。しかし、会社の「姿勢」や「覚悟」に共感して集まった人は、少々の困難では揺らぎません。

経営者が感じる違和感は「最高のセンサー」である

採用がうまくいかないとき、私たちはつい「外側の正解」を探してしまいます。新しい求人媒体、最新のSNS採用……。

しかし、答えはいつも、経営者の皆さんが日々現場で感じている「何か、うまく伝わっていない気がする」というモヤモヤの中に隠れています。

その違和感は、決して間違っていません。それは、自社のあり方を改めて振り返り、本質的な魅力を再定義するための、最も信頼できるセンサーです。

「条件」で人を釣るのではなく、「姿勢」で人を惹きつける。

このための言葉を言語化するのは、非常にエネルギーを必要とする作業です。しかし、その「姿勢」が血の通った言葉になったとき、スマートフォンの画面の向こうにいる「まだ見ぬ仲間」の不安は、確信へと変わります。

「この会社なら、自分の居場所があるかもしれない」

そう思わせるのは、時給100円の差ではなく、社長であるあなたの「覚悟」が伝わった瞬間なのです。

もし今、求人票を眺めながら「何か違う」と感じているのなら、安易に条件を変える前に、まずはその違和感を丁寧に言葉に出してみませんか。答えを出す前に、まずはその違和感を整理し、貴社だけの「物差し」をつくるところから始めてはいかがでしょうか。

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