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「公平な給与」はなぜ実現しないのか?納得感を生む給与制度設計と、評価という名の「対話」の本質

  
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「公平な給与」はなぜ実現しないのか?納得感を生む給与制度設計と、評価とい...

「社員から給与への不満が出ている。もっと公平な制度に作り直したい」

給与制度のコンサルティングの現場で、私が最も多く耳にする言葉です。しかし、最初にお伝えしなければならない残酷な真実があります。それは、”100%公平な給与制度など、この世には存在しない”ということです。

もしも、AIが自動的に正解を弾き出すような、誰もが文句のつけようのない「完璧な制度」を探しているのなら、そもそも考え方が間違っているかもしれません。なぜなら、給与とは単なる労働の対価ではなく、会社と社員の間にある「感情のやり取り」そのものだからです。

今回は、給与制度の導入で失敗しないために、納得感を生む給与制度構築の本質についてお話しします。

給与制度の正体:なぜ「評価」を抜きに給与を語れないのか

「給与制度を見直したい」と考える時、多くの人は「賃金テーブルの作成」や「手当の整理」といった、出口の数字を想像します。しかし、それはあくまで手段に過ぎません。

大事なのは、その金額の根拠となる「評価制度」という名の土台です。

給与制度は、以下の三位一体で成り立っています。

  • 等級: その人に何を期待しているか(役割)
  • 評価: 期待に対してどう応えたか(事実)
  • 報酬: その結果、いくら支払うか(分配)

給与への不満の正体は、金額の低さそのものではなく、「なぜこの金額なのか」というプロセスへの不信感です。評価とは、人を裁くためのランク付けではありません。「給与という限られたパイを、わが社はどのような考え方で分かち合うのか」という合意形成のプロセスなのです。

「公平性の幻想」を捨て、納得感を最大化する構築ステップ

「公平」という言葉の罠にハマると、制度は複雑になり、運用が非常に困難になります。目指すべきは「公平」ではなく「納得」です。そのために、以下のステップで制度を構築していきます。

① 考え方の言語化:何をしたら給与が上がるのか

「頑張っている人を評価する」という言葉は、コンサルの現場では何も言っていないのと同じです。利益を上げた人か、それとも利益を生むための仕組みを作った人か。あるいは、理念を体現しチームに貢献した人か。「わが社は、こういう人を評価し、報いる組織である」という経営者の意志(考え方)を言葉にすることからすべてが始まります。

② 評価基準の設計:給与の「根拠」を可視化する

ここでようやく実務的な評価シートの作成に入ります。大切なのは、数値化できる成果だけでなく、「数値化できないが重要な行動」をどう定義するか。ここが抜けると、社員は給与のために「数字にならない良い仕事(若手の育成や組織の土壌作り)」に目が向かなかくなってしまいます。

③ 各種制度の連携:給与が決まる「仕組み」を整える

評価だけ、賃金テーブルだけがあっても給与制度は機能しません。以下の3つの仕組みが「一本の線」で繋がっていることが重要です。

  • 等級制度(ものさし): 「どのレベルの役割を担えば、どのランクになるのか」という階段を明示する。
  • 報酬制度(分配ルール): 「評価の結果、具体的に基本給や賞与がどう変動するか」という計算式を明確にする。
  • フィードバック制度(対話): 決まった数字をただ渡すのではなく、上司が「なぜこの結果になったのか」を直接伝える場を設ける。

「誰が、いつ、どこを見て判断し、それがどう給与に反映されたのか」。この一連の流れがオープンであるほど、たとえ希望通りの金額でなかったとしても、社員は「次への課題」として前向きに受け入れることができるようになります。

実録:A3用紙を埋め尽くす「立派な評価制度」が、なぜ社員の不満を増大させたのか?

以前、ある企業の給与制度改定に携わった際、それまで使われていた「評価シート」を見せてもらい、言葉を失ったことがあります。

そこには、A3サイズの用紙を埋め尽くさんばかりの評価項目が並んでいました。「業務遂行力」「勤務態度」「定量的成果」「目標管理(MBO)」……。あらゆる要素が網羅され、一見するとこれ以上ないほど緻密で、客観的な「立派な制度」でした。

おそらく、制度を作った側は「項目を増やし、多角的に評価すればするほど、公平感が高まるはずだ」と考えたのでしょう。しかし、現実は真逆でした。

現場の社員や管理職から聞こえてきたのは、「ただただ、疲れる」という不満だったのです。

  • 項目が多すぎて、自分が何に集中すれば給与が上がるのか分からない。
  • 評価する側も、膨大な項目を埋めることに必死になり、部下との対話が疎かになる。
  • あまりに「網羅的」であるがゆえに、個人の突出した強みや、数字に表れない真の貢献が、薄められた平均点の中に埋もれてしまう。

結局、その会社では「制度は立派だが、誰も信じていない」という冷めた空気が蔓延していました。公平さを求めて「盛りだくさん」にした結果、制度から「体温」が消えてしまったのです。

コンサルタントが見た、失敗する給与改定の共通点

この事例のように、他社で成功したパッケージや教科書通りのテンプレートをそのまま導入した会社は、必ず数年で制度が形骸化します。

一見、合理的で美しいロジックに見えても、そこに自社独自の「歴史」や「文化」を感じられる余地がないと、社員は「冷たい制度に管理されている」と感じ、モチベーションを失います。

制度は「借り物」であってはいけません。不器用でも、自社の言葉で語られ、自社の実態に即して「捨てるべき項目は捨てる」という勇気を持って設計された制度こそが、社員の心に届くと考えています。

まとめ:給与制度は「会社の未来」への投資である

給与制度を「コストを管理するためのルール」と捉えるか、「社員の成長と会社の未来へ向かうメッセージ」と捉えるか。その視点の違いが、数年後の組織力に決定的な差を生みます。

「公平」という幻想を追い求めるのは、もうやめましょう。 それよりも、社員一人ひとりと向き合い、「あなたのこの貢献に、これだけの報酬で報いたい」と胸を張って言える根拠を持つこと。そのためのツールとして、給与制度を再設計してみてはいかがでしょうか?


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